東京地方裁判所 昭和63年(ヒ)610号 決定 1988年11月02日
申請人
新都心興産株式会社
右代表者代表取締役
小谷光浩
申請人
渋谷ファッションセンター株式会社
右代表者代表取締役
小谷光浩
右申請人二名代理人弁護士
河合弘之
同
荒竹純一
同
中村覚
同
磯部和男
同
野末寿一
同
立石邦男
同
野中信敬
同
丸山利明
被申請人
国際航業株式会社
右代表者代表取締役
桝山明
右被申請人代理人弁護士
関根栄郷
同
藤村義徳
同
吉木徹
主文
申請人らに対し昭和六三年一二月一〇日までに左記事項を会議の目的とする被申請人の株主総会を招集することを許可する。
記
一 取締役桝山明、同武田裕幸、同三木彬嗣、同仁木光男、同三浦孝雄の解任の件
二 取締役一五名選任の件
理由
一申請の趣旨及び理由は、別紙株主総会招集許可申請書記載のとおりであり、これに対する被申請人の主張は別紙昭和六三年一一月一日被申請人上申書記載のとおりである。
二一件記録によれば、申請人らが六か月前から引き続き被申請人の発行済株式総数の一〇〇分の三以上に当たる株式を有していること、申請人らは、被申請人代表取締役に対し、昭和六三年一〇月一八日到達の書面で申請の趣旨記載の事項を会議の目的とする株主総会の招集を請求したことが認められる。
三ところで、一件記録によると、被申請人は、昭和六三年一一月一日付で、同年一二月一九日を会日とし、申請の趣旨記載の事項を議題とする株主総会を招集のための基準日設定公告をしたことが認められ、被申請人は、これをもって、本件申請の利益が失われたものと主張する。
しかしながら、商法二三七条二項後段は、会社が少数株主による株主総会招集請求のあった日から六週間以内の日を会日とする総会招集通知を発せず公告もしないときには、当該少数株主は裁判所の許可を得て自ら総会招集をなしうると規定しているのであるから、裁判所の許可があるまでの間に会社が総会招集通知を発し又は公告をしたとしても、右総会が少数株主による招集請求のあった日から六週間以内の日を会日とするものでない限り、これによって少数株主の総会招集許可申請権が当然に失われ、裁判所がその許可をなし得ないものとなると解することは相当でない。同条項の趣旨が株主総会開催の不当な遅滞を防止するところにあることに鑑みると、裁判所が少数株主による総会招集を許可したとしても会社の招集した総会より前に総会を開催できる見込がない等の特別の事情が認められる場合にのみ、総会招集許可申請はその利益が失われると解すべきである。
これを本件についてみるに、会社が総会招集のための基準日設定公告をした総会の会日が昭和六三年一二月一九日であることは前記のとおりであるところ、申請人らは、総会招集許可があった場合にはその許可による総会を右会日より前に開催することが可能であると主張するのであるから、これによると、本件許可申請の利益が失われるということはできない。
四なお、被申請人は、申請人らの所有する株式数が取締役の解任に必要な発行済株式総数の三分の二に達しておらず、申請人らと同調して議決権を行使する株主がいたとしても、解任決議が可決される可能性は全くないから、本件申請は却下されるべきであると主張するが、少数株主の招集による総会において当該少数株主の期待する決議がなされるかどうかということは招集許可申請の当否を判断するにあたって考慮にいれる必要のない事項であるから、被申請人の右主張は失当というほかない。
五以上によれば、本件申請は理由があるから、非訟事件手続法一三二条一項により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官山口和男 裁判官佐賀義史 裁判官坂倉充信)
別紙株主総会招集許可申請書
申請の趣旨
左記の件を会議の目的たる事項とする国際航業株式会社株主総会を、申請人らにおいて招集することの許可を求める。
記
一、取締役桝山明、同武田裕幸、同三木彬嗣、同仁木光男、同三浦孝雄の解任の件
二、取締役一五名選任の件
申請の理由
一、被申請人国際航業株式会社(以下「被申請人会社」という。)は測量、地質調査、海洋調査、環境に関する調査、土木及び建築の計画・設計・施工・管理、技術コンサルタント業務、コンピューター情報処理サービス及びソフトウエアの開発・販売、土地建物の賃貸及び売買、測量・調査・設計に関する機械、材料の売買・リース並びに展示物の制作及び右に付帯する業務を目的とし、昭和六三年六月三〇日現在、資本金が一六九億二四〇一万一六四〇円、発行済株式の総数が四〇二三万五二一二株、額面株式一株の金額が金五〇円の株式会社である。
二、申請人渋谷ファッションセンター株式会社及び新都心興産株式会社は、六か月前より引続き被申請人会社の株式を、申請人渋谷ファッションセンター株式会社において四、五〇〇、〇〇〇株、申請人新都心興産株式会社において五、八九〇、〇〇〇株、それぞれ所有しているものであり、右申請人両名が所有する株式の合計一〇、三九〇、〇〇〇株は、被申請人会社の発行済み株式の総数の一〇〇分の三以上に当たる。
三、申請人両名は、昭和六三年一〇月一七日、被申請人会社代表取締役桝山明に対し、内容証明郵便をもって、申請の趣旨記載の件を会議の目的たる事項とする株主総会の招集を請求し、右書面は同月一八日右桝山明に到達した。
四、申請人両名が株主総会の招集を請求するに至った事情は概略以下のとおりである。
1 申請人外桝山健三は、被申請人会社の創業者であり、昭和三一年以来同社の代表取締役社長の地位にあったが、昭和五六年六月、社長職を同人の長男である桝山明に譲り、代表取締役会長に就任した。
2 代表取締役桝山明は社長就任後、他の取締役らに相談せず勝手に被申請人会社の重要な取引を決定、遂行しようとし、被申請人会社に財産上の損害が生じる直前において申請人外桝山健三がこれに気付き、取引を止めさせるということがしばしば起こった。
また近時会社の規律も緩み、役員による背任や贈賄等の事件が会社中に蔓延するに至った。そのために申請人外桝山健三は昭和六二年六月頃から、代表取締役桝山明及びこれに同調する取締役らを退任させて、被申請人会社の経営陣を一新する必要があると思うようになっていた。
3 昭和六二年七月頃、大手仕手筋による被申請人会社の株式の買い集めが嘘になるや、代表取締役桝山明は当時取締役経理部長であった石橋紀男らと相談の上、いわゆる株の防戦買いを開始した。その後代表取締役桝山明らは昭和六三年三月三一日までに、大量に買付けた自社株約五五〇万株を関連会社や取引先十数社に売却してはめ込んだが、右の防戦買い及び株式のはめ込みは、商法違反の自己株売買及び特別背任に該当する疑いが極めて濃いものであった。更に申請人外桝山健三の下に、代表取締役桝山明らが、昭和六三年六月二九日開催の第五五回定時株主総会の対策のために、暴力団を雇い、数億円の金を渡したという情報まで入ってきた。
4 そこで申請人外桝山健三は、当時既に被申請人会社の発行済み株式総数の半数近くを取得していた申請人渋谷ファッションセンター株式会社及び新都心興産株式会社並びに申請外コーリン産業(現在は株式会社光進)の小谷光浩と交渉し、同人の株式買い集めの目的が、株式を高値で被申請人会社に買い取らせるというものではなく、被申請人会社の経営自体に強い意欲をもっていることを確認した上で、同人の協力を得て、六月二九日の定時株主総会において代表取締役桝山明らを退任させることにした。
5 申請人外桝山健三は、代表取締役桝山明らの自発的辞任を求めたが株主総会の直前になってもついに同意が得られなかったので、やむを得ず株主総会において多数決で代表取締役桝山明らの取締役再任の議案を否決するための準備をしていたところ、株主総会の前日である六月二八日、東京地方裁判所より、申請人外桝山健三に同調して議決権を行使する予定であった申請人渋谷ファッションセンター株式会社及び新都心興産株式会社の議決権行使を禁止する旨の仮処分が出された。
6 申請人外桝山健三は、代表取締役桝山明らの退任を実現するために、同日午後一〇時四五分、自ら東京地方裁判所夜間受付に出向き、被申請人会社の代表取締役会長として、被申請人会社の行った仮処分申請を取り下げた。
7 しかるに代表取締役桝山明は、右取下げにより、仮処分命令の効力が消滅しているにもかかわらず翌六月二九日の株主総会においてこれを無視し、「東京地裁民事八部は、議決権の行使を認めるか否かは、会社が判断して良いと言っている。」などと強弁し、申請人渋谷ファッションセンター株式会社及び新都心興産株式会社の議決権行使を認めず、違法かつ不当な議事運営を強行した。
8 取締役武田裕幸、同三木彬嗣、同仁木光男、同三浦孝雄は、代表取締役桝山明の右行為に加担し、協力した。
9 代表取締役桝山明らは、六月二九日の株主総会終了後、取締役会において申請人外桝山健三を代表取締役会長から取締役相談役に降格させた上、本社及び全国各地の営業所において自分達の意に添わない従業員を降格・左遷する一方、今回の株主総会対策に協力したもの達を昇格させる人事を行った。
10 しかし、六月に大阪府警察本部が関西方面における被申請人会社の贈賄事件を摘発し、更に八月五日には東京国税局が株式の防戦買いに絡む脱税容疑で被申請人会社の審査を行った。これらは代表取締役桝山明らが行った不正行為の氷山の一角ではあるが、従前申請人外桝山健三が指摘してきた事実が正しかったことを裏付けるものである。
11 現在代表取締役桝山明らは、防戦買いで取得した株式のはめ込み先から、約定通り購入代金に金利を加えた金額で株式を買い戻すよう求められているが、被申請人会社の株式は暴落を続けており(昭和六三年八月九日の終値は一株三九四〇円)、もし買い戻しが実行されれば被申請人会社に多大の財産的損失を与える危険がある。
12 申請人両名は、被申請人会社の大株主として、代表取締役桝山明らの右のような不正行為を黙認することはできないと判断した。言うまでもなく、株式会社において株主は企業の所有者たる地位にあり、企業の所有と経営が制度的に分離された株式会社においては、経営者たる取締役は株主の信頼の下に企業経営に当たらなければならない。しかるに代表取締役桝山明らは、被申請人会社の過半数を占める株主らの意向を無視し、ただひたすら自己保身のみを目的として被申請人会社の経営にあたっている。かかる事態が極めて不正常なものであり、商法上許すべからざるものであることは明白である。申請人両名は、これを是正し、一刻も早く申請人会社を正常な状態に戻すために、株主総会の招集を請求したものである。
五、申請人外桝山健三外一名が昭和六三年七月一八日本申請と同じ理由により、株主総会の招集を請求して以後すでに三か月余が経過したが、代表取締役桝山明は、今日まで株主総会招集の手続をとっていない。したがって、申請人の請求により株主総会招集の手続がとられる可能性は皆無である。以上より、申請人両名は株主総会の招集の許可を申請する次第である。
添付書類
一、資格証明書 三通
二、委任状 一通
昭和六三年一〇月一九日
別紙上申書
昭和六三年一一月一日
第一、被申請会社が決定した臨時株主総会開催日の適法性について(本件許可申請の申請の利益の有無について)
一、被申請会社は、昭和六三年一〇月一八日、申請人両名から、申請の趣旨記載の件を会議の目的事項とする株主総会招集請求を書面にて受領し、同年一〇月二八日の取締役会において、右請求に応じて臨時株主総会を同年一二月二七日に開催すること、さらに同年一〇月三一日の取締役会において、右開催日を同年一二月一九日に変更することを各々決議し(疎乙第一、二号証)、右決議を受けて、本日付で、右臨時株主総会において議決権を行使する株主を確定するための基準日広告を行った(疎乙第四号証)。ところで、申請人両名は、被申請会社が決定した株主総会開催日(昭和六三年一二月一九日)は、申請人両名が被申請会社に対し総会招集請求をなした日(昭和六三年一〇月一八日)から六週間を経過した後の日(約九週間後)であることから、商法二三七条第二項後段により、申請人両名の本件許可申請は、依然として申請の利益が存すると主張するが、被申請会社が右開催日に決定したことについては、以下に述べるように、六週間を経過することにつき、合理的かつ正当な理由があると言うべきであり、株主総会での早期意思決定の実現という同条の立法趣旨からしても、許容しうるものと解され、申請人両名の本件許可申請についての申請の利益は既に失われたと言うべきである。
二、1 申請人両名は、昭和六三年一〇月一八日に被申請会社に対し総会招集請求を行い、翌一九日に東京地方裁判所民事第八部に本件許可申請書を提出した。被申請会社は同日、同裁判所から右事実を知らされたが、その際、本件許可申請は被申請会社に対する招集請求から一日した経っていないので、商法二三七条二項の「遅滞ナク総会招集ノ手続ガ為サレザルトキ」の要件をまだ満たしおらず、被申請会社に対して請求のあった日から二週間以内に被申請会社において、株主総会招集の決定を行わない場合に、右要件は充足されるとの裁判所の判断も併せて説明を受けた。これを受けて被申請会社は、昭和六三年一〇月二五日午後二時の審尋期日終了後、申請人両名の請求に応じて臨時株主総会を開催するかどうかを審議するため、同月二八日に臨時取締役会を行う旨の招集通知を各役員に発送し、二八日に前記一項記載の決議を行ったのである(なお、申請人両名は、被申請会社が、右二五日の審尋期日において、申請人両名の招集請求に応じない旨明言したと主張するが、そのような事実は一切なく、また臨時取締役会の招集通知を二五日の午前中に発送したという事実も全くない。)。
したがって、被申請会社の招集決定は、裁判所が示した二週間という期間内に行われており、右決定には招集手続の遅滞はないと言うべきである。
2 次に商法二三七条二項後段の定める「六週間」という期間については、基準日公告期間(二二四条の三第四項)や招集通知発送期間(二三二条一項)との関係から、この期間内に会日を定めることは実務的には困難である旨指摘されているところであるが(新版注釈会社法(5)一一二頁以下)、被申請会社のように一部上場会社で、株主数が一〇〇〇名を超える大会社の場合には、右困難さはより顕著である。
すなわち、被申請会社の名義書換代理人である中央信託銀行の説明によれば、株主数が大量であり、かつ全国に分散していること等の理由から基準日から招集通知発送までの事務処理には、どんなに短縮しても約二週間の日数を要するとのことである(疎乙第三号証)。
したがって、この事務処理に必要な二週間に右法定期間の合計四週間を加算すれば、それだけで六週間になるのであり、招集決定を行う取締役会の開催及び公告手続にそれぞれ必要な日数を考慮すれば、被申請会社においては、招集請求のあった日から六週間以内に株主総会を開くことは物理的に不可能であると言わなければならない。このような場合に、会社が六週間を超える日に会日を決定したとしても、その会日が、二三七条二項の立法趣旨からして、相当な期間内であれば、六週間以内に会日を定めることが物理的に可能な場合に準じて、右決定は適法と解すべきである。
被申請会社は、前述のように裁判所の判断に依拠して申請人両名の招集請求のあった日から二週間以内に、前記事務処理に必要な日数を考慮した上で最短期日である昭和六三年一二月一九日を会日とする招集決定を行い、決定後、速やかに本日付で基準日公告も行った(疎乙第四号証)ものであり、したがって被申請会社の行った決定には合理的かつ正当な理由が存し、適法であると解すべきである。
3 なお、申請人両名は、中央信託銀行において基準日から招集通知発送までには四日もあれば足りるとの確認を得た旨主張するが、そのような事実は一切ない(疎乙第五号証)。
したがって、申請人らが引用する横浜地方裁判所第三民事部の決定(昭和五四年一一月二七日)が述べるように、申請人両名は、被申請会社が決定した会日以前に臨時株主総会を開催することはできず、かつ、右会日以後に同一の事項を目的とする臨時株主総会を再び招集する特別の必要性もない以上、被申請会社の総会招集決定によって申請人両名の本件申請の利益はもはや失われたと解すべきであり、本件申請は却下されるべきである。
三、申請人両名は昭和六三年一〇月三一日付上申書第二項において、被申請会社が自ら総会の招集を決定したのは、議長を確保することによって、違法・不当な議事進行を行い、議事の混乱、流会の手段をとるためであると主張し、右手段を実現すべく、暴力団に協力を求めた旨主張するが、右は全くの憶測によるものであり、事実無根である。
そもそも、株主総会許可申請の問題と議長権の行使の問題とは全く別個の問題であって、後者は本件許可申請の利益の有無を判断するに際しては考慮されるべき問題ではないと解すべきである。
第二、申請人両名が掲げる取締役五名の解任議題については決議成立が不可能である。
申請人両名が本件許可申請において掲げる会議の目的たる事項のうち、取締役桝山明を含めて五名の取締役の解任については、商法二五七条二項、三四三条により特別決議を要するものであり、申請人両名において、あるいは申請人両名と同調して議決権を行使する他の株主の株式数も含めて発行済株式総数の三分の二以上の株式を所有しない限り、右決議は不可能である。しかるに申請人両名の所有する株式数は被申請会社の発行済株式数の三分の二には達しておらず、また申請人両名と同調して議決権を行使する他の株主の存在についても全く疎明がなく、仮に存在したとしても、本年六月の定時総会において被申請会社側に立って議決権を行使した株主の株式数は約一六〇〇万株式強で知り、発行済株式総数の三分の一を大きく超えるものであり、現在においてもその株式数に大きな異動はないことからしても、右解任決議が可決される可能性は全くなく、この点からしても、本件申請は却下されるべきである。